「生き返るマンション、死ぬマンション(荻原博子・著)」を読みました。
タイトルからリフォームや修繕の話なのかなと思って手に取ったのですが、建て替えやマンションの価値の維持のお話でした。
建て替えてしまったらもはや「生き返る」というより「生まれ変わる」なのでは……という疑問はさておき、これからマンションを買おうと思っている人や現在マンションを資産として持っている人には興味深い内容だと思います。
特に「価値の維持」の方ですね。既にマンションを持っている人には当たり前のことなのかもしれませんが、この考え方は自分にはなかったので気付かされました。「家なんてどんどん古くなって価値が下がっていくもの」と思っていたので。
前半はバブル時代にマンションが乱立&みんながどんどん購入した背景やその後のバブル崩壊、相次ぐ欠陥マンションの発覚などの話から始まります。
このへんは既に知っている人には必要ないかもしれません。
そこから「こんな悪い例を挙げたけど、では成功している例を見てみましょうね〜」といった流れで後半へ続きます。
後半は主に建て替えやマンション価値の維持の成功事例の紹介です。
2005年に耐震偽装が発覚した「グランドステージ池上」の建て替えや、マンション価値の維持に取り組む管理組合の事例が紹介されています。
建て替えなどは一区分所有者の身ですぐにどうこうできる話でもないのでまだ私にはピンとこなかったのですが、冒頭に書いた“気付かされた点”というのが「ブリリアマーレ有明」の事例内での一節です。
このマンションは有明にあるリゾートライクな高級マンションなのですが、最上階にはプールやジム、スパ・エステなどのリゾートホテル並の設備が入っているそうなのです。(すごいなぁ)
で、私はそういうのを見ても上記の通り「ほ〜、すごいなぁ〜」としか考えていなかったわけですが、当然そういった施設を維持するにはお金がかかるわけですよ。そのお金がどこから出てるかっていうと、施設利用料や管理費として入居者が払ったお金です。
ってことは、それらのお金が入ってこなくなれば当然施設は維持できなくなり、閉鎖されてしまうわけです。「わぁ〜、この施設すごい〜いいなぁ〜」と思って大金をはたいてマンションを買っても、なくなってしまう可能性があるということです。
「当たり前じゃねえか!」と言われるかもしれませんが、私にはこの発想がスコーンと抜けてたんです。年数を経るごとに古くはなるかもしれないけど、マンションについてきたものがなくなるという発想がなかった。新聞の折込で入ってくるマンションのチラシを見て「おっいいねぇ〜」と思っていたあの施設も、マンションの資金繰りが苦しくなればなくなってしまうかもしれないんだ、ということにやっと気づいたのです。(見ているだけで買う予定は全くありません)
施設維持のための収入が入ってこなくなる状況というのは、施設利用料ならば施設の利用者が減る、管理費ならば住人が退去して空室が出る、ということです。
これらの状況を引き起こすのがマンションの魅力の低下です。魅力のないマンションは誰も買いたがりませんから、マンションの価値の低下につながります。価値が下がれば次に購入するのはおそらく以前住んでいた人より収入水準の低い人になるため、施設を利用する可能性も低いでしょうし駐車場料金なども期待できないかもしれません。
さらに資金繰りが苦しくなっていけば、施設の閉鎖だけでなくマンション全体の管理にも影響が出てくるかもしれません。
こうして価値下落スパイラルが始まります。
そうならないために、前述の「ブリリアマーレ有明」では豪華なリゾート性を維持するためのクレドを作り、管理組合全体で目的意識を共有してマンション価値の維持に取り組んでいるそうです。
これまでマンションのことを「住む場所」「寝床」としか考えていなかったので、「資産」であり価値を維持することが必要であるという視点を得ることができたのはよかったと思います。
Amazonのレビューでは「価値決定に際してもっと重要な立地や交通などに触れられていない」との批判もあるようですが、立地や交通は一個人がどうこうできるものでもないし、「自分の資産であるマンションの価値を維持するために何かできることはないだろうか」と考えたときに「管理組合に入ったり働きかけたりして色々やってみるのはどうだろう?こういう事例もあるよ」という提案は、まぁそこそこ妥当ではないのかな、と思いました。