2019年9月3日(火)、コワーキングスペース/Bangarrowにて行われたエストニア視察報告会に参加してきました。
エストニア共和国はヨーロッパの北東、バルト三国の一国。国全体でIT化が進んでおり、最先端のデジタル国家といわれています。
Skype発祥の地でもあり、起業もさかんです。結婚と離婚、不動産関連以外の行政手続きはすべてオンラインで行えるそうです。
横浜のコワーキングスペース/Bangarrowを運営する株式会社ネットフォレストさんがエストニア視察へ行ってきたそうなので、その報告会に参加してきました。
(ちなみにネットフォレストの高橋社長は、業界団体で視察団を編成してエストニアへ行こうと提案したら却下されたので、自腹切って自社だけで行ってしまったそうです。ロックですね。)
報告会では駐日エストニア共和国大使館 特別補佐官の須原氏と/Bangarrowの店長でありエストニア視察にも参加したネットフォレストの三上氏からお話をお聞きしました。
須原氏からはエストニアの概要およびデジタル国家の成り立ちと現状の詳細、三上氏からは視察レポートといった形です。
スライドで見たエストニアの首都・タリンの街並みは「IT国家」という呼ばれ方から想像するよりもずっとのどかで、高層ビルや高い建物も見当たりません。その街を自動運転の宅配マシーンが走っているのですから、不思議な感じです。ちなみに、自動運転ドローンによる宅配も、実用一歩手前まで実証実験が進んでいるそうですよ。
日本でも自動運転による宅配が実現できれば宅配クライシスの解決につながるとは思うのですが、日本とエストニアでは広さがだいぶ違うのですよね。エストニアの人口は約130万人(さいたま市と同程度)ですが、国土は関東地方に長野県を足したくらいの広さがあります。写真で見てもだいぶ広々とした印象でした。
おそらくエストニアの自動運転技術をそのまま日本に持ってきても、通れるスペースが狭すぎて人やものにぶつかったり通行の邪魔になってしまったりしそうなので、そのへんが課題になるのかなと感じました。
電子政府構築の理由は「そうするしかなかったから」
エストニアは1991年に独立回復するまでソ連の占領下にありました。ソ連が崩壊し去った後、現在の電子政府を構築したことになります。
エストニアが現在のようなITを活用した電子政府を構築した理由は主に2つです。
・全ての国民にサービスを行き届けるには人手が足りない
・紙が足りない
人手が足りないならコンピュータに最大限働いてもらうしかありません。幸いソ連時代のサイバー拠点がタリンにあったため、IT系の人材は残っていました。
もうひとつの理由として単純に紙が足りなかったというのもあります。独立回復当時のエストニアはトイレットペーパーにも困るほどの紙不足だったそうで、当然行政の手続きのために大量の紙を消費する余裕はありません。それが手続や申請のオンライン化につながりました。
上記の理由を見てもわかるように、エストニアの電子政府は必要に迫られてなるべくしてそうなったんですね。「よーし、これからはITの時代だからIT化するぞー」と思ってやったわけではないのです。使えるものはITしかなかったし、ITを駆使してなんとかしなければ国が運営していけない状態だったのです。
また、エストニアがクラウド上で国や国民のデータを一元管理しているのは、エストニアの歴史が深く関わっています。
エストニアはソ連の前にもさまざまな国に侵略された歴史があります。国がなくなってしまう、民族が滅びてしまうことへの危機感は日本の比ではありません。
もしまた他国に占領されたとしても、攻撃されて建物がすべて破壊されたとしても、クラウド上に政府関係のデータや国民のデータが保存されていれば、いつかまたエストニアという国を立て直すことができるという思いがあるわけです。
日本には切迫感がない
一方の日本はといえば、エストニアの電子IDカードを参考にマイナンバー制度を作ったもののイマイチ上手くいっているとは言いがたいわけですが、日本のIT化がなかなか進まないのってそこまで切迫するほど困ってはいないのも大きいと思うのです。
ITを駆使して国としての機能を整備しないと国を運営していけなかったエストニアと、IT化できたらいいなーとは思うけど現状のままでもそれなりに回っている日本では切迫感が違います。マイナンバーがぐだぐだしようが電子投票の導入が進まなかろうが「なんとかしないとこの冬を越せないかもしれない」とまではなりませんからね。
「だから日本はダメなんだ」と言いたいわけではなく、このある程度安定してしまった状態から日本が重い腰を上げるには、相当の覚悟と意思が必要だなと思ったのです。切羽詰ったときに発揮される火事場の馬鹿力は使えないわけですから。
この切迫感の違いは、業務上の「承認」に関する文化の違いにも表れていると思いました。
日本企業で働く人が課題解決のために何かをやろうと思うと、上司の承認を経て、そのさらに上にもお伺いを立て……という長いフローが必要になることが多々あります。三上氏の話によると、エストニアにはそもそも承認をとるという文化がないのだそうです。
失敗のリスクよりも、今すぐそれをやらないリスクのほうが大きい。まずやってみて、悪いところは直していけばよいという考え方です。現状それなりに安定して回ってしまっている日本では「今すぐやらないリスク」をなかなか切迫して感じられないのでしょう。
起業家のスピード感
ただこの「失敗のリスクよりも今すぐそれをやらないリスクのほうが大きい」「まずやってみて、そこから改善していく」という話、私は日本でも同じことを言っている人達を見たことがあります。
少し前に書籍関連の仕事で日本の起業家の方々の話を聞いていたのですが、彼らの多くは上記のようなスピード感で仕事をしていると言っていました。
エストニアで起業がさかんなのも、この起業家のスピード感が幅広く根付いていることに関係しているのかもしれません。
エストニアと横浜市の交流
横浜に住んでいながら寡聞にして知らなかったのですが、エストニアと横浜市の間で相互交流が進んでおり、6月11日にはエストニアの経済通信副大臣と横浜市の副市長が面会してビジネス連携について意見交換をしたそうです。
■エストニア共和国経済通信副大臣と副市長の面会について
https://www.city.yokohama.lg.jp/city-info/koho-kocho/press/keizai/2019/20190612estonia.html
なにやら面白いことが起こりそうでワクワクします。
ちょうど事前にエストニアについて調べていた際に電子投票の話を見て、「日本でやるならいきなり全国の選挙は無理だろうから、横浜あたりの規模からなんとかできないものだろうか(本音:電子投票できれば楽になるから横浜でやってほしい)」と漠然と考えていたもので、エストニアと横浜市の間で交流が進んでいるのはなんだか嬉しいです。
ちなみに/Bangarrow(横浜市)はエストニア公認のコワーキングスペースとして、これからもエストニアのビジネスやスタートアップに関する情報を発信していくそうですよ。期待しています!
はじめは「エストニアって……どこだ?」と検索することから始まり、IT先進国であることもそこで初めて知るという有様でしたが、そんな私でも非常に学びの多い報告会でした。
第二回の報告会は10月10日(木)にコワーキングスペース協会のイベントとして開催されるそうなので、興味のある方はチェックしてみてください!
参考:【第一回】エストニア視察報告会&懇親会を開催のお知らせ
https://www.bangarrow.com/blog/event/000065.php